日刊競馬コラム
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日刊競馬で振り返るGI
ファビラスラフイン
(1996年秋華賞)

◎新設GI◎


レース柱(656KB)


 1996年(平成8年)、中央競馬の戦線に大きな変化があった。

 まず、高松宮杯(現・高松宮記念)の昇格。長い間、芝2000Mのとして親しまれてきたが、この年から芝1200Mのに生まれ変わった。のダービー・トライアル(芝2000M)だったNHK杯がなくなり、4歳(現表記・3歳)限定の・NHKマイルCが誕生。そして、秋の牝馬路線にも大革命。4歳戦だったエリザベス女王杯が古馬に開放され、距離も芝2200Mに変更。と同時に、今回取り上げる4歳・秋華賞が創設されている。

 京都内回りの芝2000M。「前残りあり、乱戦あり」が定評のコースで、「GIにふさわしい舞台か?」という声があったのを覚えている。加えて、実施時期。4回京都の3週目(現在は2週目)は、おおよそ10月の半ば。それまでのエリザベス女王杯より3週も繰り上がり、春の実績馬にとってはローテーションの選択の幅が狭まった。通常のトライアルを使おうとすれば、当時は阪神・ローズSと中山・クイーンS(北海道重賞になる前)しかない。仕上がり切らずに回避する馬が多くなったり、あとに控える対古馬の頂上決戦・エリザベス女王杯の前に“ひと叩き”の感覚で使うクラシックホースまで出るのではないか…。

 つまり、「GIの重みを欠くレースになるのでは」という危惧があった。初めての試みで、当事者の各陣営も我ら観戦側も手探りの状態。期待と懸念の交錯する中で、第1回秋華賞は行なわれた。

◎エアグルーヴ敗れる◎

 幸い、役者はそろった。桜花賞馬でオークス2着のファイトガリバーこそ欠いたものの、オークス馬・エアグルーヴが参戦。大器の呼び声が高く、1番人気で単勝170円と期待を集めた。春の宝塚記念でマヤノトップガンを相手に0秒3差、トライアルのローズSを快勝したヒシナタリーが2番人気。桜花賞2着・イブキパーシヴ(4番人気)、オークス4着・ロゼカラー(7番人気)。オークスで2番人気だったエリモシックも前哨戦を制して復活。3番人気に支持された。

 レースはシルクスプレンダーの先導で始まり、3F35秒2、前半5F58秒7。これは速い。3コーナーではマークリマニッシュが交わして先頭に立ったが、どうやら差し馬有利…と思って中団を進むエアグルーヴを探すと、何と武豊の手が動いている。

 勝ったのは好位をキープしていた松永幹夫のファビラスラフインだった。4コーナーでは2番手まで上がり、その勢いのまま抜け出して押し切った。2着・エリモシック(4コーナー12番手)に1馬身1/2差、3着は道中後方から3コーナーすぎにまくったロゼカラー。勝ちタイム1分58秒1はレコードに0秒1差。恵まれた勝利ではなく、正攻法の堂々たる内容だから文句のつけようがない。

◎強かった初代勝ち馬◎

 ファビラスラフインは、この年の2月デビュー。無傷の連勝でニュージーランドT4歳S(GII)に挑み、1番人気に応えてエイシンガイモン以下に快勝している。4戦目のNHKマイルCでも1番人気。しかし、ここではハイペースに巻き込まれ、勝ったタイキフォーチュンから遅れること2秒1、18頭立ての14着に終わった。スピードは非凡だが、まだ完成途上。そんな印象が残るレースぶりだった。

 とはいえ、5戦目となった秋華賞でも惨敗後・休み明けながら5番人気。能力評価は高く、実際、それが間違いではないことを示す制覇劇だった。

 ただ、気になることがいくつかあった。大本命・エアグルーヴの不可解な敗戦。「パドックでフラッシュをたかれて…」。その程度のことで負ける馬だったのか? 後日、レース中の骨折が判明したことにより、やっと納得できたが、では、そんなエアグルーヴに勝っただけのファビラスラフインは? 好時計勝ちとはいえ、紛れが生じやすい京都内回り2000M。力勝負になって、初めて真価が分かるのではないか。

 ファビラスラフインが次走に選んだのは、エリザベス女王杯ではなく、牡馬相手、しかも世界の強豪が集まるジャパンカップだった。1番人気は凱旋門賞馬・エリシオ、2番人気は秋の天皇賞馬・バブルガムフェロー、3番人気がキングショージを勝ったペンタイアで、4番人気にブリーダーズCターフ2着のシングスピールという豪華な布陣。ファビラスラフインは7番人気に留まり、筆者は「この距離で、底力比べでは…。第一、久々好走の反動の心配さえある。単勝が20倍を切っているのは売れすぎ」と考えていた。

 恐れ入った。シングスピールとハナ差の接戦。それも鞍上・天才デットーリと追い比べの末の2着だから、もう何も言うことはなくなった。秋華賞の初代勝ち馬は、史上に残る名牝であった。

 その後、12月の有馬記念はピークを越えて10着、計画されていた海外遠征も果たせず引退したが、それによってファビラスラフインと第1回秋華賞の価値はいささかも下がるものではない。

◎ライバルも奮戦◎

 エアグルーヴは翌1997年(平成9年)、天皇賞・秋でバブルガムフェローを下して優勝、ジャパンカップではピルサドスキーとクビ差の2着。全盛期を過ぎた1998年(平成10年)もジャパンカップでエルコンドルパサーの2着と健闘した。

 エリモシックは97年のエリザベス女王杯優勝。凡走することも多かった馬だが、ここ一番で1世代上のオークス馬・ダンスパートナーを破り、勝負強さを見せつけた。

 結局期待ほど大成できなかったヒシナタリーも、96年暮れの阪神牝馬特別(GII、現・阪神牝馬S)では、やはり年上の馬を撃破している。

 レベルの低い年もあって、“G1.5”などと言われてしまうこともある秋華賞。しかし、ファビラスラフインとエアグルーヴという何年かに1頭の女傑を同時に得て、その第1回は、新設の門出を祝うのにふさわしいメンバーだった。

ファビラスラフイン 1993.4.13生 牝・芦毛

競走成績:7戦4勝
主な勝ち鞍:秋華賞
Fabulous Dancer
1976 鹿毛
Northern Dacner
Last of the Line
Mercalle
1986 芦毛
Kaldoun
Eole des Mers