日刊競馬コラム
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日刊競馬で振り返るGI
シャダイカグラ
(1989年桜花賞)


レース柱(1.11MB)


 今回担当者から桜花賞の文章お願いしますよという話しがあり普段あまりものを書くという機会がないので、引き受けることにした。最近はライブで桜花賞は見ているが、改めて過去の成績を調べていて気づいたのが、1989年の第49回桜花賞。勝ったのは武豊騎乗のシャダイカグラだが、この馬に特に思い入れがあるというわけではない。私は現在編集の仕事と兼務で中央競馬のレース写真を撮るカメラマンの一員という立場だが、実は撮り始めたのがまさにこの年。GIを撮るのももちろん初めてだった。

 それ以前から編集部員の中で写真を撮る人間はいたのだが、たまたま退社などで撮る人がいなくななったのがそもそものきっかけ。旅行などでスナップ写真は撮ったことはあっても動くものを撮るなんてまったくの未経験。まして露出やシャッタースピードなどといった専門知識もなくまったくの手探り状態で始めた。当時はまだ旧社屋の時で宿直で会社に出入りしていた写真好きの人に本を借りたり、いろいろアドバイスしてもらった記憶がある。

 今でもそうだが競馬の写真は難しい。他の競技同様にやり直しのきかないのがきびしいところ。とにかく勝つ馬を撮ることが大前提。だがレース前自分で推理してこの馬が勝ちそうと思っていた時、ノーマークの馬が勝ったり、馬券も買っていたりするとつい買っている馬にピントをあわせたりと未熟さのゆえかつい冷静にシャッターを切れないことが今もある。

 ゴール前の接戦は見る人には胸のわくシーンだが、カメラマンにとっては緊張する瞬間。馬体が重なってくるのはいいが、たとえば内と外で馬体がはなれている場合。こんな時にカメラマンの取るパターンは大体2つ。1つは保険をかけて両方をおさえる。もう1つはどちらか1頭を決め撃ちする。私は後者のタイプだが、よくレースの終わったあとで聞こえるのが、反対を撮っちゃったよというつぶやき。こんなリスクをカバーするためには今日は外が伸びる、内が伸びるとかの傾向やレースの流れを読んで前有利、差し有利といったような馬券を買う時の検討と同じ行為を頭の中で瞬時に考えないといけない。もちろんそれ以外にも慣れと感も必要。数多く撮ってくると同じようなシーンが前にもあったという記憶が生きてくることもしばしば。

 当時の阪神競馬場はもちろん今の近代的な造りと違い場内ではアミで焼いた餅を売っていたり場内も何となくがさがさとした状態。現在のガラス張りの方が暑さや寒さから身を守れる利点はあるが、私には昔の雰囲気がなつかしい。スタンドの端にあった厩務員さんの控え場所の石段がカメラマンの待機場所にもなっていたが、当時は遠慮がちに隅で小さくなっていたことが思いだされる。

 さてレースは18頭立て。単枠指定されたシャダイカグラは大外18番枠。特異なおむすび型の阪神芝1600。最初のコーナーまでカーブがきついため枠の有利、不利がもろに出るレースとして知られている。ここでカグラは痛恨の出遅れ。後年真偽は定かではないが意識的にしたのではと言われた本命馬には大きなロス。ただデビュー3年目、この年GIを4勝することになる武豊騎手。練りに練った作戦だったと考えるのもあながち間違いではないのでは。実際馬群を縫って進出、インの好位をキープ。早めに抜け出したホクトビーナスが勝利を確信した時、ゴール前はかったような差し切り。武騎手牝馬での初のクラシック制覇となった。レースに感動したが、カメラマンとしてはまだまだ経験不足。人に見せられるような写真は残念ながら撮れなかった苦い記憶だけが残っている。

 カグラは2冠を狙ったオークスでは田島良保現調教師=ライトカラーの2着と惜敗。夏を無事に越した秋緒戦のローズSは相手にも恵まれ楽勝。1人気で迎えたエリザベス女王杯(当時は3歳牝馬限定の2400)だったが20頭立ての最低人気のサンドピアリスの激走の中、大差のしんがり。実はレース中に右前繋靭帯断裂というアクシデントだった。結局これがもとで引退と短い競走生活を終えた。

 そんな桜花賞も今年からの馬場改修で平成19年からは現在の1コーナーシュートからのスタートではなく新設の外回りコース、向正面からのスタートとなり枠の有利、不利も少なくなりそう。はたしてどんな新しいドラマを刻んでくれるのだろう。そしてどんなシーンを撮れるのか楽しみも一杯。

シャダイカグラ 1986.3.23生 牝・栗毛

競走成績:11戦7勝
主な勝ち鞍:桜花賞
リアルシャダイ
1979 黒鹿毛
Roberto
Desert Vixen
ミリーバード
1976 栗毛
ファバージ
ラバテラ