●芯から鍛えた馬が強い
 訓練こそ西高の源流だ


 西の馬主カントリー牧場の谷水信夫氏はハードトレで鳴らす人だった。カントリー牧場のタニノムーティエの同期21頭が、淘汰されて競走馬になったのはわずか5頭。戸山調教師とのコンビで2年前のタニノハローモアでダービーを制し「東に追いつき追い越すにはハードトレ」の信念を実証して見せたのである。それが関西ファンの願望でもあったのだ。
 思えば関東馬がクラシックで圧倒的に強かった時代、
「稽古で走れない馬がレースで走れるわけがない」
「追い切りでムチを入れるのは馬にがんばることを覚えさせるためだ」
 府中の大厩舎の調教師たちの言葉である。
いま、毎週グリーンチャンネルの調教ビデオを見ていると、関東馬で終いムチを入れるシーンなどほとんどない。風向きは西高東低に偶然変わったのではない。

●優勝劣敗が希薄
 賞金制度に原因


 30数年前にある調教師に言われた。「うちのこの2頭の総賞金を比べてみな。同じ年齢で下級条件の馬の方が稼いでいるだろ。今の競馬は勝つより、力量以下の条件で着を拾っているほうがいい。バカなシステムだよな」。死力を尽くしてクラシックを勝つことより、長く走らせてで活躍して馬の賞金をしのぐ馬はいくらでもいるのである。いまや商才に長けた調教師ならここ一番での究極の仕上げなどしない。9分の仕上げで3歳、4歳、5歳、6歳…稼動率を上げた方が得だからだ。
 何ヵ月も稽古を積みながら、納得できる動きになるまで使わなかった松山吉三郎師。
「ファンに迷惑かけるわけにいかない」。
休み明けでもきっちり能力通りの評価ができた尾形藤吉厩舎の馬。
競馬は誰のためにあるのか?
 たしかに競馬にはいろいろな側面がある。主催者、馬主、厩舎、騎手…。立場によって利害が異なるのは確かだが、代弁する術のない、物言わぬファンを後回しにしてはならない。内部に目を向けた「馬優先主義」の姿勢には、公僕であるはずの官僚や政治家が自分たちのご都合を優先させる姿と二重写しになって感じられるからである。